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僕が文庫本を読み始めてしばらくすると、女の子が動き始めた。
女の子はゆっくりと身体を起こしてぼんやりしていたが、やがて僕に気付くと、僕に向かって笑顔で「こんにちは」と言った。
僕は女の子の笑顔を見ながら、拍子抜けした。普通、戸惑ったり僕のことを不信がったりするんじゃないのだろうか?
女の子はしばらく僕の方をニコニコしながら見ていたが、急に思いついたように「あっ!」と声を上げた。
「やだ、私、ここで寝てましたか?」
やっと気付いたか、と僕は思った。さっきまでは寝ぼけていたのだろう。
「うん、一時間以上は」
「えっ? 一時間も? ……そうだ、カバン!」
女の子はきょろきょろし始め、僕の横に置いてあるカバンに目を止めると「良かった」と呟いた。
「寝返り打った時に落ちたんだよ、カバン」
僕が言うと、女の子は僕の顔をジッと見つめた。
「あの、もしかして、カバン拾ってくれたんですか?」
「まあ……」
「で、一時間もここにいてくれたんですか? カバン、見張ってくれてたんですか?」
「うん、でも、別にそういうわけではないけど……」
「ありがとうございます! すみません、こんなところで眠っちゃって」
「でも、それ、本当だよ。何でこんなところで寝てたの? 昼間とは言っても、何かと危ないと思うよ」
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