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 僕の言葉に女の子はキョトンとした表情をした。女の子を責めるつもりはなかったが、口調が厳しかったかもしれない。  僕は母親によく「もっと愛想良くしないと!」と言われていることを思い出した。僕は服装が派手ではないし、中肉中背だし、見た目は自分ではそこまでだとは思ってないけど、僕の顔つきは他人にはかなり怖く見えてしまうらしい。確かに僕はあまり笑うことはしないし、口調も厳しくなってしまうこともある。僕と長く付き合っている人はみな「最初は怖い人だと思った」と言ってくる。 「あの、急に眠くなってしまって。気付いたらいつの間にか眠っていたんです」  女の子が意外にも普通に答えたので、僕はホッとしながらも不思議な気持ちになった。  この娘は僕のことを怖がらないのだろうか? 寝起きに僕が横に座っていたというのに? 「そうなんだ。でも、これからは眠くなっても、公園のベンチで寝るのはやめた方が良いと思うよ、危ないから」 「本当、そうですよね。いろいろとありがとうございます」  女の子は笑顔で僕に深々とお辞儀し、ベンチから立ちあがると公園を後にした。女の子はずいぶんスッキリした表情をしていた。公園のベンチなのに、よっぽど熟睡できたのだろうか。  僕は女の子が小さくなって行くのを、長い事ぼんやりと見つめていた。
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