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僕はユキと初めて会った時のことを思い出した。ユキはベンチから起き上がるとニコニコしながら僕に向かって「こんにちは」と言ったっけ。僕はユキの呑気な反応に拍子抜けした。確かに呆気に取られた顔をしていただろうし、呆気に取られた顔をしていたら、怖そうにも見えなかったのかもしれない。
「あれは、あの状況で笑顔で『こんにちは』なんて言うから、ビックリして……」
「だって起きた時、あんまりにもすごく良く眠れたから、本当は部屋の布団の中で寝ていて、まだ夢でも見ているんじゃないのかなって思ったんです。……あっ、もしかして、自分の顔が怖く見えるんじゃないかって、気にしてるんですか?」
僕は急に核心を突かれて、思わずユキから視線を逸らした。
「別にそんなことはないけど」
「気にしなくてもいいですよ! だって、ベンチで寝ている知らない人のそばに一時間もいてくれるなんて、ホクトさん、優しい人だと思います」
ユキが笑顔で言うと、僕は胸をドキドキさせた。女の子が僕に「優しい人」と言うなんて意外だった。
その後も僕はずっと胸をドキドキさせていた。どうも、意外な言葉を言われたからドキドキしているのではないような感じだった。ユキと一緒にいるからドキドキしているのだろうか、と僕は何となくと思った。
「そう言えば」
僕は自分のドキドキを隠すように話題を変えた。「初めて会った時、何でベンチで寝てたの?何かあったの?」
「あれは……」
ユキは言葉を詰まらせた。あの饒舌なユキが言葉を詰まらせるなんて、出会ってから初めてかもしれない。
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