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 穏やかに晴れた秋の午後、買い物に出かけた僕はついでに紅葉でも見ようと公園を歩いていた。すると、女の子がベンチで横になって眠っているところに遭遇した。両腕で抱えているバッグがまるで抱き枕のようだ。眠っている彼女の前を何人か通り過ぎて行ったが、誰も彼女に気付いていないように普通に通り過ぎて行く。僕は一瞬、彼女はホームレスなのだろうか? と思ったが、ホームレスにしては小奇麗だった。  僕が見ていると、眠っている彼女が寝返りを打った。寝返りを打った拍子に彼女が抱えていたカバンがベンチの下に落ちた。  僕は反射的にカバンを拾った。  女の子は寝返りを打って体制を変えても、何事もなかったように眠り続けている。  僕はカバンをベンチの上に置くと、隣に腰を下ろした。このままカバンを置いて立ち去っても良かったが、誰かにカバンを盗まれてしまうかもしれない。別に彼女に恩も義理もないが、拾ってしまった以上、カバンを見張っていなくてはいけないような義務感を覚えてしまった。  僕はさっき買った文庫本を取りだして読み始め、読みながら時々彼女の方を見下ろした。女の子は相変わらず気持ちよさそうに眠っていた。
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