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その元凶の一人である彼女の名前はイーラ・ルベル。
戦三女神(トレ・ウ・ディーア)という通り名を持つ三姉妹の次女だった。
彼女達が戦に現れた時は、死と滅亡をもたらし、躯の血を啜ると噂される程に恐れられているのだった。
中でもイーラの逆鱗に触れると、怒りが収まるまで周囲を血という血、誰も彼も見境無く鮮血の海を飛び散らしていく。
血を浴びた髪を隠すように常に黒のマントを羽織り、舞うように戦場を進んでいく彼女のその恐ろしい姿にみな、『死の鳥(モルテ・フォーゲル)』と呼んで避けているのだった。
彼女の怒りを鎮められる二人の姉妹は今この場にいない。
これ以上逆鱗に触れないようにするのは全て、彼女の愛をはね除けた向かいの男に委ねられている。
「さぁ、答えなさい! ハイレン・シャガールッ」
ハイレンと呼ばれた男は身の丈程ある大剣を背負いながら、軽く答えた。
「興味がない」
更なる衝撃が酒場を包む。
「きょう、み……ですって……!」
「あぁ。お前のこと噂で聞いたことあるけど、それ以上のこと知らないし、知ろうとも思わねー。それに女が戦に出るなんて、俺には理解できないからな」
「……!?」
イーラだけではなく、周囲も絶句した。
それほどまでにハイレンという傭兵の返答は驚くべきものだったからだ。
クルーデ地方でこの三姉妹に敵う者はいないと恐れられ、そして彼女達を味方につければ、勝利と栄光をもたらすとまで伝えられている。
その噂はパロッタの国外にまで広まるほど。
それ故彼女達の命を狙う者より、彼女達を口説こうとする者の方が多いのだ。しかし、そんな名誉などに目が眩んだ男共を眼中にせず、躯にしているのがこの三姉妹だ。
孤高な存在である彼女達。
その一人であるイーラが、告白し断られる。
天地が壊れるようなものだ。
「もういいか? 俺はまだこれからイルテまで遠征しなきゃ行けないんだ」
周囲の緊迫感を読めない男はさらに出て行く準備をしている。
「ゆるさ……ないっ」
「ん?」
「この私を侮辱した、お前を……許さない!」
掲げた右手が嵐を呼ぶ。
ハイレンが静止する間もなく酒場が派手に吹き飛んだのだった。
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