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 主人は単身でここに住んでいるようだが、今まで扉の向こうに主人以外の気配を感じたことはないし、話し声が聞こえたこともない。ましてや誰かに風呂を使わせたことなど、一度もないのだ。  結構な色男なのに、恋人のひとりもいないのかと余計な心配をしてしまうほどに、主人の周りにはそういう気配がない。  触れたら切れそうな鋭さと、一度決めたら何がなんでも突き進む、直情型の暴君タイプ。  そんな印象だ。  きっと何かに思い悩むことなんてないのだろう。そんな風に思っていたのだが……。  つい先日、主人が俯いて湯に打たれながら、クソッ、と短く呟いて、壁を殴っている姿を見た。  あれは一体なんだったのだろう――。
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