やすおくん

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小学四年の二学期始業式、やすおは田舎の学校から転校してきた。人が集まっていたのも最初だけ、いつも下を向き、人と目を合わそうとしない奴で、口数も少なくすぐに孤立するようになった。運動も勉強も苦手、ボロボロな服で、僕は子供心に「貧乏な家なのかな」と可哀想に思っていた。 「やすお!」 たまたま、帰りの時間が重なり、一緒に帰るために声を掛けた。やすおは驚いていたが、うつむいていた顔は少し嬉しそうだった。帰り道では、相変わらずやすおは話をしなかったが、僕の話をうつむきながら「うん、うん」と聞いてくれていた。 やすおは休みが多かった。週に2,3日ほど休みがあり、家が近い僕は手紙などが入った連絡帳を届ける係になっていた。担任から、 「悪いな・・・。やすおはお母さんもお父さんもいないんだ。おじいちゃんとおばあちゃんと三人暮らしでさ。お前がいてくれることが、やすおにとって大きな心の支えになっているはずだよ。」 と、聞かされていた僕は、嫌がることなく連絡帳を届けに行った。やすおの家は、とても古いアパートで、周りが雑草で覆われていて昼でも薄暗い。隣の部屋は空き家のようだった。 ーーーーートントン、トントントン。 インターホンのない家なので、毎回ドアをノックするが応答はない。ポストに連絡帳を入れて帰るのが、僕の仕事だった。 ある日、やすおが休んだ日、ノックをするとドアが開いてやすおが出てきた。 「一緒に遊ぼう」 僕は少し不気味な感じがしたが、 やすおを元気づけてあげたい一心で家の中に踏み入れた。家の中は物がなく、人が住んでいるとは思えないほどガランとしていた。 「家の人は?」 「・・・もう、いないんだ」 やすおは寂しそうにつぶやいた。僕はこの時、「今、いないんだ」と聞き間違えたんだと思っていた。 やすおは笑顔こそないがよく話し、昔の家族写真を見せてくれたりして、楽しい時間を過ごした。
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