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◆1 アヤマチの夜
■アヤマチの夜
「ありえないわ」
昨夜――
初めて褥(しとね)で一戦を交わした番様(つがいさま)は、素肌に唇の痕(あと)を多く残したまま憂鬱(ゆううつ)そうな眼差しで、開口一番そう言った。
隣で煙草をふかしていた俺を、信じられないような目で見ている。
……反応を伺(うかが)う限り、記憶が飛んでいるらしい。
……深酒だったものな。
わずかに青ざめた顔色が、少しかわいそうにも思うけれども、そんな表情も魅力的だと思ったのは、本心だ。
化粧をしていた顔も美しかったが、化粧が汗で取れかけている顔も、美人だった。
口紅の剥がれかけている唇だというのに、どうしてこうも、色っぽいのだろうか。
あの肉感的な唇が、昨夜は俺の身体中に吸い付きまくっていたとは、とても思えない。
身長は、目算で百七十五センチ。決して華奢ではないが、自分のウエイトを徹底的にコントロールしているのだと思われる。余計な肉も筋肉も一切ない肢体は、肌の管理も妥協していないのだろう。女よりも白く滑らかだった。
そんな美麗な人が、俺の横で釈然としない表情で半裸をさらしている。下半身は寝具の内に収められているので、今は見えない。
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