涙の亡霊、怒りの亡霊

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しかし、このまま俺が死んでは亡霊の言いなりだ。亡霊もおそらく、心の奥底では、俺のそんな無様な死にざまは望んでいないはずだ。 だから、俺は亡霊の主張を聞いてみた。怖かったが、よく耳をすませてみた。涙の亡霊はこう言っていた。 「お前の表面的な表現は価値がない。お前がきちんと向き合ったものにこそ、価値が生まれる。お前の物語を主張したいなら、お前はもっと、自分自身ときちんと向き合え。さもなければ俺が呪い殺す」 涙の亡霊は思ったよりは情熱的なやつだった。よく話を聞いていると、その表情はわずかに喜びに変わった。 怒りの亡霊の話もよく聞いてみた。怒りの亡霊の主張はこうだ。 「俺が怒るのは、お前が他者との距離感に憶病になり過ぎているからだ。お前は、人が作ったものにも、自分が作ったものにもリスペクトが足りない!だから、お前の主張に、お前の言葉に自信が持てない!そんなお前は俺が呪い殺す!」 怒りの亡霊はそう言って一瞬笑った。怒りの亡霊は、思いのほか明るい奴だった。 俺は、再びネットで小説を公開しはじめた。涙の亡霊も、怒りの亡霊も、まだしつこくあらわれ、俺に罵詈雑言を浴びせてくる。しかし、段々とその呪いの言葉にも慣れてきた。呪いとは自分自身の中にあったものだと気づいた。この亡霊どもは、最近やっと少しずつ、喜び、笑うようになってきた。 (終)
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