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今からお話しする物語は、実際に起きた出来事です。
寒い冬のある夜のこと、私は部屋の電気を消し、枕元のスタンドライトで寝る前の日課の小説を読んでいる。
和室で寝ている私の布団の横には、たくさんの読み終わった小説が積み上げられている。
けっして広くはない部屋には、さらに部屋を小さく感じさせる原因となっているものがある。
今ではほとんど使われていない、和箪笥だ。壁から二センチほど離して置かれている。
小説もある程度進み、中間の盛り上がるシーンにさしかかっていた。
小説に意識を沈めながら心地よく読んでいると、ふっとした瞬間に何だかタンスの横から気配と視線を感じる。
すると次の瞬間、全身の毛が逆立ち、心臓が高鳴り冷や汗が吹き出す。
味わったことのない、圧倒的恐怖。
感じた視線をたどろうとしたが、恐怖のあまり体が脳からの命令を拒否する。
いくばくかの時が過ぎ、少し体がいうことを聞くようになったので恐る恐る首を少しだけ回し、目をタンスの方へやる。
そこには、全く知らない血だらけの女の人がタンスと土壁の間の隙間から。こちらを覗きこんでいる。
(ンッッッ!!!)
怖すぎて声にならない。
脳までしびれるほどの恐怖を感じたのは産まれて初めてだ。
だからなぜ声がでないのか、すぐには理解できない。
じっくり舐めまわすように、心の底までを見透かすような、鋭くねっとりとした視線で私を見つめる。
すると次の瞬間、人間のように喉から発せられた声だったのか、それとも脳に直接流された思念だったのかわからないが、私にははっきり聞こえた。
「あいつじゃない…」
それだけを言い残して、隙間の奥にスッと入って消えた。
とたんに、部屋中に充満していた鋭すぎる殺意と通常の何倍もの重力が霧散する。
全てから解き放たれ全身の緊張は嘘だったかのように弛緩する。
あれは一体なんだったのか。
そして、あいつとはいったい誰だったのか。
今となっては知る由もない。
皆さんも隙間にはご注意を。
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