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天国へイケる、とニネットがギルに渡してきたカプセルを前に、ルキアノスは顔をしかめた。
「またあいつは、こんな代物を」
「彼が馬鹿をやる分は仕方がないが、これを調合した人間の存在が問題だ」
確かに、ああ見えてルキアノスは、騒ぎが大きくなるような悪事は滅多に引き起こさない。
立場をわきまえている、というより、面倒な裁判に引っ張り出されるのがうっとうしい、ということが理由だろうが。
「金さえ積まれれば、言いなりに処方する薬剤師か。確かに放ってはおけんな」
「ただ」
「ただ?」
「これが本当に、媚薬かどうかは解からない」
そうだな、とルキアノスは顎に手をやった。たとえ中身がビタミン剤でも、これは媚薬ですよ、と吹き込めばプラシーボ効果でそれなりに興奮するかもしれない。
「確かめてみないか?」
「どうやって」
「ルキアノス、それを飲んでみろ」
「俺がか?」
大丈夫、とギルは水差しからレモン水をコップに注いだ。
「君に妙な症状が出れば、私が責任を持って介抱してやろう」
気取られないように。怪しまれないように。
ギルは、さりげなさと気軽さを装った。
まぁ、そういうことなら、とルキアノスはカプセルを開けると中の顆粒を口の中にさらさらと送った。 ギルから手渡された水で、体内に流し込む。
「効くかな」
半信半疑のような、曖昧な笑顔をルキアノスは向けてきた。
ここまで馬鹿正直な奴だったとは。
ギルは、もし効いた場合に私が何をしたいのか、ということを心の中で復唱していた。
錯乱したルキアノス。そんな彼を、一体どうしてやりたいのか。
いつも笑顔で人を惹きつけてやまない、真っ直ぐで健全な聖者の彼が、堕落に溺れるさまを見てみたい。
曖昧な笑顔は、薬に向けたものではない、とルキアノスは水を飲みながら考えていた。
ギル。お前は本当に、俺が妙な症状にとらわれたらば、介抱してくれるのか。ベッドに寝かせ、傍にいて、嵐が過ぎ去るのを診ていてくれるのか。
互いに心は離れても、根の部分では信頼し合っていると信じたかった。薬を試すのではない。ギルを試すのだ。
二人の思惑が交錯する中、時間だけが過ぎて行った。
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