第一章 罠

14/18
前へ
/207ページ
次へ
 荒い息、飛び散る汗、牡の饐えた匂い。  ぐちゅり、ぶちゅりと腰をやるごとに、ルキアノスの体内で自らが大きさを増してゆく。硬く硬く、張り詰めてゆく。  枕をかき抱くように掴みしめている、ルキアノスの横顔が見える。その顔を眺めながら、腰をやる。  体が大きく揺れるたびに細めた眼を閉じ、うっとりと息を吐くその顔が憎らしい。 「ルキアノス、そんなに。そんなに気持ちが悦いか? ルキアノス!」  騙し討ちで体を嬲られながらも、悦楽に身も心も蕩かしてしまっているルキアノスが憎らしい。  ギルの体に、強い波が訪れた。射精感が湧きあがる。 「ッく!」  急いで、抜いた。  ルキアノスの体内から、分身をずるりと抜き出した。 「あぁ……」  はぁはぁと荒げた息のルキアノスの目線が、ギルと交錯した。透き通る青い眼には、快楽で流した涙がにじんでいる。  狡い。  そう、狡いのだ、こいつは。  幼い頃から、そうだった。  私が必死で努力してようやく手に入れるものを、難なくその手に掴み取る。  今もそうだ。どうして私がルキアノスのために、奴を悦ばせるために必死で動かねばならないんだ? 「ルキアノス、交代だ」 「……え?」 「同じようにしろ、私に。今すぐにだ」 「ギル……」  呆けたような、ルキアノスの視線。  聖地中の人間の心を掴んで離さない凛々しい光はなく、ただうつろにギルの動きを追っている。 俊敏な動きはすっかり影をひそめ、ただ鈍重に寝台の上を這う。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加