第一章 罠

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 閉めきった室内のぬるい空気は酸素も薄くなっているのか、瞼がひとりでに重くなる。  同じ内容を、ただ表現を変えて繰り返し唱えるだけの神官のプレゼンはもう少し続きそうだ。  生理的にか心理的にか、あるいはそれの両方か。思わず出そうになった欠伸を静かに噛み殺したギルの脇腹を、何かがつついてきた。    聖獣・マーオの神騎士ニネット。  眼を寄越すと、この隣席の同僚が手にしたペンでつついているのだ。  ニヤニヤと笑う悪たれ顔は、また良からぬ事を企んでいるのか。  しかし、その刺激は今のギルには救いの手だった。このままでは、本当に居眠りをしてしまいそうだ。  来年度の、聖地カラドにおける技術や文化の取捨選択。それを協議するための協議、が執り行われていた。神官や武官、そして神騎士が集まり話し合われるこの会議、12の神殿を2殿ずつに振り分けて意見をまとめる。それをさらに持ち寄り、法皇を交えて決定するのだ。  遠く神話の時代から、温故知新を繰り返し築き上げられてきた聖地カラド。  地球上にありながら人間社会の三次元とは異なる世界に存在するこの特殊な空間には、定期的に外の社会の技術や文化が導入される。  今、その候補となる技術のひとつの説明を、延々聞かされているギル。  手にしたレジュメを読めば5分で理解できる内容なのに、どうして一項目につき20分以上の説明を受けねばならないのだろう。  退屈は極まっていたところなので、良からぬニネットのちょっかいに乗ってみることにした。
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