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これ見よがしに伸びをするニネット。
長く退屈な会議は、ようやく終わったのだ。その姿をちらと眺めて眉をひそめる人間が数名いたが、もちろん彼はお構いなしだ。大きな欠伸のおまけをつけて、首を回して体をほぐす。
そんな彼が、急にドアへ走った。ギルがさっさと、会議室から退席しようとしているのだ。逃がしては大変とばかり、隣に並んで長い回廊を歩き始めた。
「ね、ね、さっきの。上手く出来てたろ?」
「いい加減にしてもらわないと、紙とペンすら会議に持ち込めなくなる」
その返事には悪意のない笑いを一つたてた後、ニネットはここからが本題とばかりギルの肩に手を乗せてきた。
「今夜、三次元へ遊びに出ようと思ってんだけど、一緒にどう? いい女の揃ってる店が」
「遠慮する」
「たまには、ぱあっと!」
「間に合っている」
間に合っている、と言いながらも、ニネットはギルが三次元へこっそり抜け出し遊んで回ったことなどないだろうとは解かっている。だからこそ、いつもこうやって声をかけている。
この生真面目な男が羽目を外したところなど、見たことがない。ぜひ一度、拝んでみたいものなのだが。
「じゃあさ、いいモノあげる」
そう言ってニネットが指先でつまんだものは、ひとつの小さなカプセルだった。一見ただの薬だが、彼がわざわざ持っているとなると、何か違法の香りがする。
「すごいよ、これ。天国にイケちゃうよ?」
やはりな、とギルは眉根を寄せた。
女の前振りがあったところを見ると、おそらくは媚薬。カラドでは禁止されている類のドラッグのはずだが。
ギルの心中を察したか、ニネットはにやりと笑って言いわけをしてきた。
「大丈夫だって、外でしか使わないから。バレるわけないって」
「すでに私にバラしている事は解かっているのか」
「ギルはこんなこと、チクったりしねえ。そうだろ?」
確かに、とため息をついた。ニネットを庇いだてするわけでもないし、悪事に加担するわけでもない。
ただ、こんな些細な揉め事に巻き込まれるのは面倒なのだ。
違法ドラッグの存在は捨て置けないが、仮にも神騎士であるニネットを巻き込んでの騒ぎは起こしたくない。
せいぜい彼にこれを調合して与えた薬剤師をつきとめ、それとなく左遷するだけだ。
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