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「ギルくんは良い子だから、ご褒美にコレをあげちゃう♪」
ニネットはそう言うと、カプセルをギルのポケットに滑り込ませ意気揚々と去って行った。
現物を手にしている以上、お前も同罪、というわけか。
ニネットらしいさばき方だ。
どうやって、このいかがわしいブツを処分しようかと考えを巡らせ始めた時、回廊の角からルキアノスが歩いてきた。
手には、自分と似たようなレジュメを持っている。彼も会議の帰りらしい。
「どうだった? そっちは」
苦笑いしながら声をかけてくるルキアノスの表情を見ると、彼の会議の内容も同じだったと見える。ギルはうっすら眼を細め、黙って軽くうなずいた。
「そうか。俺もはっきり言って、眠くなったぞ」
ルキアノスが、屈託なく笑う。そこで、会議中に浮かんできた彼への思いが甦ってきた。
ギル同様に自らを律し、他者に敬われている。その上、慕われているルキアノス。
彼は取り乱すことなどないのだろうか。
ニネットのように、己の欲望に忠実に動くことなどないのだろうか。
その晴れやかな笑顔の下に、私のようなどす黒い澱を淀ませてはいないのだろうか。
「よかったら、私の部屋で休んでいかないか」
ギルは、そうルキアノスに声をかけながら内心賭けに似た感情に昂ぶっていた。
用があるから、と断ってくれないか。今なら、まだ間に合う。
だが、ルキアノスは乗ってきた。喜んで、と笑ってきた。
あぁ、ルキアノス。お前は、今の私が何を企んでいるのか解かっているのか。この聖人のような微笑みの裏側で、まるで悪魔メフィストのごとく腕を伸ばしているのが解からないのか。
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