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変な雰囲気になったのを切り替えるために、わざと高いテンションで乾杯をする。
だが、おかしな現象はそれだけでは留まらなかった。
少し酔っぱらった様子の彼は表情が急に変わって、妙にあか抜けた笑みを浮かべた。
「なぁ、お前も彼女はできたのか?」
「お前から恋愛の話をするなんて珍しいな。実は半年前から付き合ってる人がいる」
「本当か!? あんなにモテなかったお前が、よく彼女を作れたな」
「いやいや、彼女できたことないお前に言われたくない」
彼は身体を左右にゆらゆらと揺らしていた。そしてうわ言のように呟いた。
「バイクに乗れよ。彼女と一緒に乗ると楽しいぜ」
「またバイクの話か? さっきお前、バイクも持ってないって言わなかったか?」
彼は返事をせず、開けているだけで、減っていないビール缶を掴んだ。
「バイクに乗れよ。待ってるからな」
それだけを言って、彼はビールを一気に飲み干した。
それから彼は普通だった。顔もイケてないし、話し方もオタクっぽい。だから大した話はしなかった。
数日経って、友達がバイクで事故して、去年亡くなったのを思い出した。衝撃的な事故死だったのに、なぜ忘れていたのかわからなかった。
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