ブゥゥゥゥーーーーーン

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その日、Aと友人のK、Kの先輩のRは夜十時過ぎまでファミレスでだべっていた。ちょうどAがドリンクバーに立ったとき、Rのスマホが鳴り、彼は居心地悪そうに小声で電話に出た。ときどき割れた音声が聞こえたが、はっきりとした内容は分からないまま、Aは席に戻った。電話を終えたRが顔をしかめながらスマホをポケットにしまう。その目はひどくうろたえていて、テーブルの上の唐揚げを見ているようで実際はどこも見ていなかった。 「なんかあったんですか? ていうか、電話、誰からだったんですか?」 Kがおずおずと聞くと、Rは「やばい、やばいよ」と小さく呟き、 「ちょ、説明は途中にする! いいからついてきてくれ!」 上着と荷物を乱暴に掴んで席を立ち、慌てて支払いを済ませ店を飛び出した。AとKは顔を見合わせたが、そのRのあまりの気迫にただならぬ事態の発生を察知し、急いで後を追ったという。 三人はあるビルの前にたどり着いた。と言っても、廃ビルではない。使用者はもう少なくなっていたが、少し古いだけで普通のオフィスビルだ。 道中のRの話によると、先ほどの電話は清掃業者である友人のYからで、仕事仲間が財布を忘れてきたから一緒に探してほしいと頼まれたのだそうだ。そうして二人は夜九時頃にビルに入った。いくつかの会社の明かりがついていたから安心できたし、二人もすぐに帰る予定だった。だが、仕事仲間の忘れ物のある階だけは全ての明かりが消えていて、なんだか気味悪く感じた、という。 「こういうのってホラー映画みたいだな」 「ばっ、余計なこと言ってないで早く見つけてさっさと帰るぞ!」 「はいはーい」 そう言った同僚の声はいつしかだんだんと遠くなり、Yが呼びかけてもやがては返事が無くなった。仲間の名前を連呼するも応答はなく、電話をかけようとスマホを取り出した途端、それまで煌々とついていた蛍光灯が一斉に切れた。Yはいてもたってもいられなくなり、Rに助けを求めたのだという。
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