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私は非常階段で茫然と立ち尽くしていました。すると、下の階からゴミ掃除のおじさんがやってきました。おじさんはサングラスをかけており、夢の中に出てきた旅人ディン・ディディンと同じ顔をしてました。
「お帰りなさい姫様。今度はもっと面白い世界に旅立たせてくれると信じてますよ」
私の耳元でそうささやいた掃除のおじさんは、そのまま何事もなかったかのようにすたすたと非常階段をのぼっていきました。
ああ、異世界とは現実の延長線上にあるもんなんだなーと思いました。そう言えば、あの王様、どっかで見たことある顔だなーっと思ったけど、小さい頃に見たっきりの、うちの父親だったんですね。母から、父の訃報のメールが届き、思い出しました。お父さん、死ぬ間際に私に会いたかったのかな。私、お父さんのこと、ほとんど覚えてないのに。そうだ、あの小人のおじいさんも、死んだおじいちゃんに似てたなあ。
私は編集部をあとにしました。明日からまた普通の仕事の日々です。あれだけ怒鳴られて嫌な思いをしたあげく、しょうもない夢を見てしまった私ですが、不思議と、また仕事の合間をぬって小説を書こうという気になっていました。今度はもうちょっと面白い小説書けるようにしないとな、と思いました。もうドナリ編集を魔王にするわけにはいかないですからね。
帰り道の空は雲一つない青空でした。
(終)
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