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前兆
頬に一滴の雨粒がぶつかった。
黒いフードをかぶった男が厚い雲を、いまいまし気に見上げた。
その足のすぐ下では、自らの影に触れられるのでは無いかと錯覚する距離で、生い茂る木々が後ろへと流れ過ぎていく。
手足に蝙蝠の様な皮膜を持った四枚羽の大蜥蜴が、背負った鞍に跨った主人の方を見た。
目が合うと、フードの男は共に飛ぶ仲間達に目を配った。
文句ひとつ言わないが、旅の足となっている三頭の大蜥蜴達も含めて、明らかに休息を必要としている。
なにしろ、休みなく18時間も飛んでいるのだから当然である。
このような強行スケジュールで旅をしているのには、それなりの理由があるのだが、誰かに倒れられても困る。
「一時の方角、洞穴が見えるな。そこで休息をとる! 全員周囲の警戒は怠るな!」
「了解!」
フードの男の指示に仲間達が答える。
すると、大蜥蜴の一頭が首の後ろにある飾り鱗を震わせて、カッカッカッと音を出した。
全員がすぐに森の中に降りると、木の影から空の様子をうかがった。
その音は、この大蜥蜴が敵を察知した時に出す警戒音である。
この大蜥蜴は個体の中でも特に臆病で、馴らすのに苦労した一頭であった。
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