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その甲斐もあり、その索敵能力の敏感さは、他の個体と比べても群を抜いていた。
今回の様な隠密任務には、特に向いた一頭である。
だから、森は沈黙に包まれ、一向に何も起きなくても、誰も警戒を緩める事は無かった。
何かがおかしい。
そこは、国境からは離れているし、道も無ければ、航路も通っていない。
ブランクゾーンと呼ばれる危険地帯であり、だからこそ人目を避けて遠回りをしてまで選んだのだ。
だとすれば、危険な野生動物が近くにいる事も考えられるが、空を高速で飛ぶ大蜥蜴を脅かす野生動物など、この地方では確認されていない。
それでも、だからこそ、足止めされていると分かっていても、誰も声を出さず、ジッと周囲の警戒を続けるしかなかった。
やがて、雨が降り始めた。
ゴウン……ゴウン……
雨音に紛れて、何かの駆動音が曇天から響いてきた。
よく知る音だ。
「この音は、戦艦?」
仲間の女が呟いた。
女の言う通り、直上の雲をかき分けて、巨大な船底が、徐々にその姿を現した。
「あの紋章は……アナトリアの!?」
直径三百メートルの大きさを誇る空中戦艦が一隻、雲の下に潜って来た。
通常航行高度は上空800メートル程度の筈なので、かなりの低空飛行だ。
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