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葵は、一位になれなかったら本当にセクシーな下着を買うし、予選に落ちたら買ってもくれない事は、長い付き合いから分かっていた。
それはどの道、家に帰ってから面倒な事になる。
特に、親からのセクシーな下着に対する興味本位の見当外れな質問を受けるのは、想像するだけで億劫でならない。
だが、それよりも単純に、美咲は負けるのも諦めるのも、人一倍嫌いだった。
そんな事を考えていると、そう言えばと思い出したように美咲は客席を見た。
そこには美咲に手を振っている両親と、兄の姿があった。
兄は美咲にビデオカメラのレンズを向けている。
美咲が小さく手を振ると、兄も撮影の手を維持したまま手を振り返した。
美咲は思った。
みんなの「期待に応えたい」と。
期待を裏切らない為に、努力をしてきた。
そしてこれから、その力を出し切るのだ。
美咲は目を閉じた。
大会の為に日々練習も重ねて来たし、今朝も自宅の水風呂でわざわざイメトレをして来た。
準備に抜かりもなければ、今日は快晴で絶好の試合日和である。
負けたら他人のせいに出来ない状況で泳げると言うのは、勝ち負け関係無く気持ちが良い。
目を開け、会場にある時計を見ると、時間は11時。
丁度分針がカタンと動くのが見えた。
すぐにスタート用意のアナウンスが流れ始める。
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