ハローワールド

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 スタート位置にあるハンドルを握ると、膝を抱え込み、足の裏を壁につけ、背泳ぎのスタートの姿勢をとる。  全身のバネが、スタートダッシュの瞬間を、今か今かと待っている。  美咲自身も、壁を蹴るタイミングを集中して待つ。  集中、集中、集中……同時に、リラックス、リラックス、リラックス……  自分の心音に意識を向ける。  トクン、トクン、トクン……鼓動はリラックスしている。  その時、また音が聞こえた。  何の音かは分からないが、確かに聞こえた。  聞いた事の無い音だった。  イヤホンからの音楽の音漏れ、とも少し違う。  何かの音楽、いや、もっと複雑な……  ノイズの様な……  こんな事なら、iDは予選が終わってから入れればよかったと、少し後悔した。  まったくついていない。  その時、世界がスローモーションになる様な、歪むような、違和感を感じた。  一番近いのは、何の感覚だろうと思った。  そうだ、これは知っている。  デジャヴュである。  ゾーンとか、そう言うのかな? 泳ぐ前から、興奮でハイなのかな?  そんな事を内心思うが、すぐに気持ちを切り替える。  パンッ!  スタートを知らせる銃声が”ゆっくり”と、会場に鳴り響いた。  美咲の懐いた不安とは裏腹に、その身体は完璧なタイミングでスタートを切った。     
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