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スローの中、水飛沫の一つ一つが確認出来る。
その中で視界が広がっていく。
天井のライト、梁の鉄骨、電光掲示板、巨大モニター、観客席。
そして水中に顔が沈む直前に、観客席で応援する家族の姿が見えた。
潜水でイルカの様に身体を動かして全身で水を掻き分け、壁を蹴った勢いで距離を稼ぐスタートは、自己ベストも狙えそうな、良い滑り出しだった。
水の流れを全身に感じるが、水にぶつかるのでは無く、水を掻き分け、水塊の隙間を縫う様に泳ぐ感覚。
調子が本当に良いと全身で感じている。
だが、まだ勝負は始まったばかりだった。
気を抜いては足元をすくわれる。
水面に顔が出ると、肺いっぱいに息を吸い、手を動かす。
ここからが本当に練習の成果が試される見せ場……その筈だった。
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