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「?」
最初の違和感は、視界の異常だった。
だが、意識がその前に気付いたのは、においの変化だった。
プールの、消毒された水独特の臭いは無く、それよりも遥かに複雑な臭いがする。
水に濡れた岩、土、砂埃、草、樹。
そして微かに、美咲の通う女子中学校の裏にあった人工の池から臭ってくる、水棲生物独特の臭いに近い”生臭さ”を感じた。
整備された都会で生きている美咲が感じた事の無いレベルの、濃厚な自然の香り。
鼻の奥で感じた変化は、美咲に原因を見つける様に促し、こうしてようやく視界の変化に気付いた。
ゴーグルの色のついたレンズ越しに見ていた視界は、規則正しく配置されたプールを照らす天井のライトでは気が付けば無く、美咲の遥か上空には鍾乳石で出来た無数のつららが天井一面から直下に狙いを定めていた。
その天井には、不規則に幾つも岩盤が崩落した様な大穴が開いていて、大穴の外には雲が流れる空が見えた。
穴だらけの天井からは、厚い雲越しに日光が真上から差し込んでいるので、地下だと言うのにかなり明るい。
美咲は、突然の事態に背泳ぎの手と足を止め、立ち泳ぎをして周囲を見た。
訳が分からなかった。
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