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胴回りを見るに、美咲を丸呑みに十分に出来そうな太さと、20メートルを超える長さがある。
見た目には、確かに鎧の様な鱗に覆われたウナギかウツボの様な魚だった。
ただ、その口から行儀悪くはみ出した無数の長い牙から、何を食べるのかは初見でも予想はできた。
現実離れした事態に魚を見ていると、iDが自動で魚を検索した。
だが、未登録生物と表示された。
その魚の頭に、美咲の影が被ると、ゆっくりと口を美咲の方に向けた。
「え、う、うそでしょ!?」
そんな美咲の独り言は届かず、そのまま水面に向かって泳いでくるのが見えた。
そして、魚の口がゆっくりと、大きく開いた。
魚の口の中に広がる吸い込まれそうな暗闇が美咲に迫る。
本能的な、捕食者と対峙した時に感じる恐怖に、美咲はパニックになりながらも、一番近い岸まで大慌てで向かった。
どうにか、無事泳ぎきった。
今の泳ぎなら、種目こそ違うが間違いなく大会の本選でも表彰台に立てる……なんて事は、頭によぎる余裕も無く、岸に這い上がる。
水面を見ると、大きな影は、美咲を見失った様で再び湖底へと戻って行った。
美咲は、キャップとゴーグルを外して、辿り着いた岸の大岩の上で大の字に倒れ込んだ。
一度、目を閉じてみた。
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