第一章 光と闇

2/39
前へ
/882ページ
次へ
 辺りは黒一色だった。暗闇の中に身を置く女の子が、懸命に目を見開いても、その瞳には、黒のほかには何も映っていない。 「あー」  彼女が声を出しても、狭い壁に自ら出した音が反響し、肌を微かに震わせるだけだ。  彼女はその光景しか知らなかった。なぜ自分はこんな所にいるのだろうとか、そんな疑問も浮かんでいないだろう。それは、産まれてからずっとここにいる彼女にとっては、これが世界であるからだ。  真っ暗な闇の中、自分の姿すら知らずにいる彼女は、声という存在を最近になって知ったようだ。 「あーあー」  彼女は、最初は小さい声を出していたが、まるで自分の声をいろいろ試しているかのように、強弱をつけて声を発していた。遊んでいるのだろうか。
/882ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2507人が本棚に入れています
本棚に追加