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辺りは黒一色だった。暗闇の中に身を置く女の子が、懸命に目を見開いても、その瞳には、黒のほかには何も映っていない。
「あー」
彼女が声を出しても、狭い壁に自ら出した音が反響し、肌を微かに震わせるだけだ。
彼女はその光景しか知らなかった。なぜ自分はこんな所にいるのだろうとか、そんな疑問も浮かんでいないだろう。それは、産まれてからずっとここにいる彼女にとっては、これが世界であるからだ。
真っ暗な闇の中、自分の姿すら知らずにいる彼女は、声という存在を最近になって知ったようだ。
「あーあー」
彼女は、最初は小さい声を出していたが、まるで自分の声をいろいろ試しているかのように、強弱をつけて声を発していた。遊んでいるのだろうか。
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