第三章 力との闘争

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 黒猫の発する低い声を聞いたユハンは、不思議そうに首をかしげながら「うん」と(うなず)いた。  そして「ねぇ、ねぇ、黒猫さん」と付け足した。  口を開き、かわいい声を響かせるユハンは「どうしてユハンの火は黒いの?」と再び首をかしげながら言った。 「黒い?」  黒猫は青い目をユハンに向け、(つぶや)くように返事を返す。 「火は赤いものでしょ?ユハンの火は黒いんだよ」  サイキと手をつなぎながら、不安そうに声を響かせたユハン。  先ほど初めて炎の力を使ったユハンは、自分の力の色が漆黒になっている事を不思議に思っていたようだ。 「…………」  ユハンを直視したまま、しばし無言になった黒猫。  通常であれば、奇跡の力と神々の力は全く別の力であるため、お互いの力に影響を及ぼす事はない。奇跡の力が神々の力に影響を及ぼす事は、異例の出来事なのだ。  歴史上、初めて産まれて来た闇の子。ユハンから視線を外した黒猫は、空を見上げ、世界に大きな光を与える太陽を視界に入れていた。 「太陽には影響ねぇ。闇の力が影響すんのはユハンの中だけみたいだな」  黒猫は小さな声で言った。  炎の力は、空に浮かぶ太陽の力そのものであり、炎の神竜がもし死ぬような事があれば、太陽がなくなるとも言われている。太陽は、炎の神竜の力によって作られた星なのだ。  空に浮かぶ太陽に何の変化もない事から、炎が黒く変化するのは、闇の子であるユハンが力を扱った場合のみと言うことになる。 「炎は、周りを照らす明かりですからねぇ~?」  とてもゆっくりとした口調で、言葉を発したサイキは、ユハンの手を握ったまま周りに笑顔を向けた。 「照らす力か……なるほどな」  黒猫はサイキに視線を移し、三本の尻尾を漂わせながら言い、立ち上がってユハンの体に飛び乗った。  驚いたように目を丸くしたユハンは、サイキとつないでいた手を離し、体に飛び乗った黒猫が落ちないように両手で体を抱いた。 「周りを照らすのは、光の力と共通する部分ですからぁ~。だから闇の力が反応したんだと思いますが」  ユハンに飛び乗った黒猫にサイキは言う。  そして「闇の力が反応するのは、炎の力が闇の力と同等なほど大きな力だからでしょう。闇が反応した結果、漆黒の炎が生み出されたのではないかと」と続けた。
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