第三章 力との闘争

92/93
前へ
/882ページ
次へ
「あ! シエルー! おはよー!」  眉を(ひそ)めていたカリュウは、すぐに笑顔を取り戻して、手を大きく振って、家から出て来たシエルの下へ走って行った。 「…………」  急に笑顔になって走って行ったカリュウを見ながら、不貞(ふて)(くさ)れたような顔をするティラン。 「大丈夫だよ。行こ?」  リキュウはティランを(なだ)めるように優しく言い、カリュウの跡を追って走り出した。  仏頂面のまま、カリュウたちがいる場所まで少し遅れてティランも足を進ませた。  シエルは立ち止まって、走って来るカリュウたちに笑顔を向ける。 「皆、おはよー!」  シエルは、辿(たど)り着いた皆に向かって気さくに声を響かせた。  ミライやユハンが家から出て来たのはそれからすぐ後の事だった。  ミライは両親と離れてカリュウやシエルがいる所へ走って行くが、ユハンはサイキから離れようとせず、彼女と黒猫と共に大人たちの所へ向かおうと足を進ませた。 「ユハンー!」  ユハンの下へ走りながら、シエルが声を響かせる。 「シエル、おはよう」   白に近い金色の長い髪を漂わせながら、シエルに笑顔を向けるユハン。 「行こ!」  ユハンの下へたどり着いたシエルは、彼女の手を握ってカリュウたちがいる所へ走り出した。  急に手を引かれたユハンは驚いたような顔をし、後ろを振り返ってサイキの顔を見たが、サイキは手を緩やかに揺らして「行ってらっしゃ~い」と口にしていた。 ユハンの手を取って、カリュウたちの所へユハンを連れて来たシエル。 「ユハン、おはよう!」  笑みを浮かべて言うミライを目にしたユハンは「お、おはよう」と、苦笑いを浮かべていた。 「おめぇ何であっち行こうとしてんだよ」  ティランは不思議そうな顔をしてユハンに言った。 「サイキさんと話してて気付かなかったみたいだよ! 皆、集まったね」  まるで怒っているかのようなティランの口調に、ユハンが(おび)えた顔をし始めた事に気付いたシエルは、すぐに言葉を発して彼女をフォローした。  シエルは、ユハンが皆の輪に入る事を苦手としている事をよく分かっていた。  力を扱う訓練は、シエルと同様、完璧にやりこなすユハンだったが、体力強化の訓練では、シエルやカリュウたちに着いて行けず、いつも最下位になってしまう。
/882ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2507人が本棚に入れています
本棚に追加