第四章 出会い

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 特例制度は、制度としては存在しているものの、あまりにも難易度の高いものである事、そして、大学で学ぶ事は学問だけではないと言った論点から、コミュニケーション能力が不足した人材を作り出すとされ、実施された事はなかった。だが今回は、エフティヒア人がGFと殺界から推薦を受けると言った異例の事態のため、適応される事となったのだ。  GFや殺界の選抜の基準とされる世界模試で子供が500位以内に入るのは彼らが初めてである事から、十代を入れるのは異例の起用であろう。  特例制度を提示し、大学卒業まで待たないのは、いち早く人材を育てるためだろうか。 「分かりました。勉学に励みます。……一つお願いがあるのですが」  険しい顔をしていた託叶は、静かに口を開くと、顔を上げて校長の目を見た。 「なんでしょう?」  校長は目を丸くして言う。 「俺…いえ、自分は今まで、ほかの生徒とは別で勉学を習って来ました。授業をクラスで受けた経験がないもので…高校からは…その…」  託叶は、言葉を慎重に選びながら口を開いた。  校長や周囲で立っている教員たちは、驚いたように託叶を視界に入れている。今まで、テレビなどで見る託叶は、軽快に言葉を話す印象がある。入学式での朗読も、実に立派なものだった。だが、今の託叶は、言葉を詰まらせながら、慎重に話している。 「初めてですか?」  校長がひどく優しい声を響かせると「え?」と、託叶は、目を丸くして声を漏らした。 「こうして欲しいと、周りに自分の意見を言うのは」  校長は、託叶を真っすぐに見ながら、やわらかい声を響かせた。 「…………」  口を閉じ、目を丸くしながら校長を見つめる託叶。  "周りが期待する姿"をやり続ける託叶は、校長の言う通り、周りが決めた事に疑問を持ったとしても、意見を言った事がなかった。 メディアの前に立てば、周囲の印象を悪くする事がないよう、軽快に奇麗な言葉を言い、勉学も、運動も、親や学校が決めた役割も、全て期待通りの成果を生み出し続けて来た託叶。意見を言わないのは、光の子の道を決める時は権力者たちが討論して決定されて行くと言う手法が取られているためだ。  自分が生きて来た道の中には、多くの大人たちが関わっている事を、託叶は十分に理解していた。この高校も、エフティヒア国でトップの学力を誇る事から、国から推薦状が届いたため受けたのだ。
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