第四章 出会い

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「彼が学ぶべき学問は、もはや誰かが教えられるレベルではありません。ですが、ああして対話して見ると、普通の少年ですね」  まるで、安心したかのように、ほほ笑んで口にする校長は「光の子も人の子ですから。これから、成長が楽しみです」と付け足した。  校長室を出て行った託叶は、廊下にいる人たちが一斉に自分に視線が集中した事に驚く様子もなく、ただ前を見て足を進ませていた。自分がこれから通うクラスを見つけると、戸を開けて教室へ入って行く。 「…………」  託叶が教室へ入ると、まるで時が止まったかのように、辺りは沈黙し、皆、光の子を視界に入れて固まった。  託叶は慣れているのか、皆の反応に戸惑う様子は見せず、自分の席を探して椅子に腰掛ける。  隣の席の女子に顔を向けた託叶は「よろしく」と笑顔を向けた。 「……え?よ、よ、よろしくお願い、します」  急に話しかけられた女子は、声を裏返しながら、慌てたようにあいさつをする。  どうやら、有名な光の子を目の前にして、皆、緊張しているようだ。  辺りは託叶の様子を(うかが)いながら、妙な静けさを保っていたが、しばらくたつと、皆、ひそひそと(つぶや)くように口を開き始めた。 「やばいめっちゃ格好良いじゃん!」 「お前話しかけろって!」 「光って見えんの俺だけ?」  口々に小さな声で話し始める辺りだったが、会話は全て託叶の耳に届いている。  中学の時も、入学した初日はこんな感じで、授業中クラスにいない事から、なじむのに非常に時間がかかって苦労したが、数カ月後には学級委員長を務め、クラスをまとめるほどの人望を集めた。だが、中学入学の頃とは違う。皆もう高校生だ。 「…………」  託叶は、困ったような顔をして、一人で無言で席に座っていた。 「たく、なんなんだおまえら、馬鹿じゃねぇの」  託叶の後ろの席にいる男が、面倒臭そうに声を上げて、辺りに言い放った。  驚いた託叶は、目を丸くして後ろを振り返ると、仏頂面の男が、椅子に(もた)れ掛かりながら「おまえが神崎託叶か。どーも初めまして」と、嫌な笑みを浮かべて口を開いた。 「…………」  無言で男の顔を見続ける託叶。 「あれ、どっかで」  (つぶや)くように言った託叶だったが、教室の戸が開き、先生が入って来てしまって話は中断された。
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