第四章 出会い

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「はーい! 皆、席についてください。入学式、ご苦労さまでした」  教壇の前に立つ先生は、声を大きくして言う。  席に座る生徒たちに背を向け、黒板に自分の名前を書き始めた先生は「担任の半沢武志です」と言いながら振り向いた。  先生は、これからの学校生活や行事を説明し、新たな教材などを配り始める。 「次は皆に自己紹介してもらいますからね」  先生が言うと、生徒たちは緊張したような面持ちで表情を固め始めた。  右側から順に自己紹介を始めた生徒たちは、皆、強張った顔をしながら話している。託叶は、皆の名前を覚えようとしているのか、話す生徒に真顔で耳をかたむけていた。数十人の自己紹介を終え、一番左側の窓側の席に座る託叶の列になると、前に座る少年が立ち上がって自己紹介をし始めた。名前とあいさつを短く口にした少年が腰を下ろした次に、託叶が立ち上がると、皆、目を見開いて彼を視界に入れる。 「神崎託叶です。これからよろしくお願いします」  託叶が口を開くと、窓から皆を照らす太陽の光が強くなる。  辺りに平穏な空気を運ぶ光の子の声を聞いた辺りは、目を見開くと同時に顔を(ほころ)ばせた。  託叶の後ろに座る少年が、(だる)そうにため息をはきながら立ち上がった。 先程、託叶に話し掛けて来た男だ。  頭をかく少年は、面倒臭そうに声を出した。 「あー成瀬南です。よろしく」  背は、託叶よりも少し小さいだろうか。  成瀬と名乗った男は、形の良い顔の作りをしており、託叶と同じく、容姿は端麗ではあるが、目付きや態度が悪く、一見、近寄り難そうに見える。  成瀬の声を聞いた託叶は、驚いたように振り返って彼を視界に入れた。 「成瀬…南……?」  子供の頃から、よく聞いていた名前に目を見開く託叶は、(つぶや)くように口にした。
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