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第一話 淫獣退治
「淫獣?」
耳慣れない言葉に、フェリクスは首を傾げる。長くなってきた黒髪が、肩のあたりで揺れた。
そろそろ切らねばなと、その毛先を摘んで引っ張る。左目に着けた眼帯も、そろそろ新調したい。だが中々そういった個人的な用事に割く時間を作れずにいた。
「はい。魔物の一種なのですが、生き物の肉ではなく、精気を喰う化け物の事だそうです」
「なるほど、それが我々の倒すべき魔物か……穢らわしい」
フェリクス率いる黒竜騎士団は、近衛騎士団に次ぐ名誉ある騎士団だ。貴族の子弟や名家の息子で構成され、主に王都の警備や要人警護の任務を担っている。
名誉ある騎士は、薄汚い魔物の血で剣を穢すような事はしない。
本来なら、それはそれぞれの町の自警団やもっと格下の騎士団、あるいは傭兵がやるべき仕事だ。
――だが、王の命令があれば話は別だ。
最近、近隣の村々が魔物に襲われているらしく、騎士団に退治して欲しいと民からの嘆願があった。
国王陛下にその魔物退治を命じられ、フェリクスは王都にほど近いピジェ村を訪れている。
最後にその魔物が確認されたのは、この村だ。
「その淫獣とやらは、見付かったのか」
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