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「いいえ。先週この村の少女が襲われて以降、目撃情報はありません」
「移動したのかも知れないな……厄介だ」
こんな任務は、早く終わらせて王都に戻りたかった。
王は何故自分達にと、恨みがましくさえ思う。
ピジェ村では一番広い豪農の屋敷を間借りしているが、所詮は田舎者の屋敷だ。居心地はあまり良くはなく、フェリクスは既にうんざりしていた。
「あと、言いにくいのですが……実はこの淫獣退治に名乗りを上げた騎士団がありまして」
「……まさか。またあの男か」
軽い頭痛がして、フェリクスはこめかみを押さえた。あの男が絡むとロクなことにならない。
こうしては居られないと、嘆息しながら腰掛けていた椅子から立ち上がる。
「エブリー。奴はどこにいる」
「はい、酒場で……楽しんでいらっしゃいます」
「また昼間から……ああ、全く」
「この間みたいに、娼館に迎えにいく羽目にならないだけマシですよ」
副官のエブリーは、そばかすの浮いた頬を掻いて苦笑いを浮かべた。
確かにそうだが、そもそも昼間から遊び歩いているその男が悪い。
不機嫌を隠さず肩を怒らせて、フェリクスはエブリーを連れて部屋を出る。
王国は貧富の差が激しい。
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