第三話 ケダモノの遺言

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第三話 ケダモノの遺言

どこをどう走ったのか、自分でもよく分からない。 ただひたすら、ブランドンから逃げたくて足を動かし続けていた。 するといつの間にか、見知らぬ森の中に居た。 夜の森は、月明かりも充分に届かない。薄暗く視界が悪い為、フェリクスはすっかり迷ってしまっていた。 ピジェ村周辺の地図を思い出す。確か、村の北に森があったはず。おそらく今居る森は、そこだろう。 そこはまだフェリクスは直接調査に出向いていない場所だった。 土地勘は全くない。 「……クソ……」 近くの切り株に腰掛ける。ひどく疲れていた。 額にずり上がっていた眼帯を、定位置に戻す。 ブランドンは、フェリクスをとことん侮辱した。 許せないし、許すわけにはいかない。 騎士がここまで屈辱を受けたなら、決闘をして恥辱を晴らすしか無いだろう。 「大嫌いだ……ブランドンめ……」 呟いて、剣の鞘を抜いた。 磨き上げられた剣に、フェリクスの顔が映り込んでいる。 憎しみと悲しみに、青い目が揺れていた。 いずれにせよ、自分が借りている屋敷に戻らねば。 そう思い、重い腰を上げる。 ぐちっ。 不意に、何か湿った音が聞こえた。 訝しく思い、音のした方へと向かう。 ぐちっ、ぐちっ、ぐちっ、ぐちっ。     
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