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◇
翌日、レジが空いた時間にスカートにシャツ姿の女性が現れて、たどたどしく俺に言った。
「今日、面接させていただく御手洗と申します。店長さまはいらっしゃいますか?」
ガチガチに固まりながらそう言う女性に、俺は悪い印象は受けなかった。
正直に言ってしまえば、その人が来るまで忙しくて面接のことなんて忘れていたくらいだし、ドタキャンされてもおかしくないと思っていた。
でも、こうして現れたこと、レジで丁寧な言葉遣いが出来ることに好感はもてる。
ただ、接客に慣れてないなという印象は拭えない。
一番長く続いた50代のおばちゃんは、前にスーパーのアルバイトの経験があったと言っていた。
なんというか、気持ちに余裕がどこかにあって、それは言葉の端々からにじみ出ていて客にも伝わるものだった。
でも、この御手洗さんはあからさまに緊張している、そういう感じが見てとれて昼間から酒を呑むオヤジに絡まれてもおかしくない。
「どうぞ、奥の部屋へ」
「はい」
俺が店長だと分かると、御手洗さんは更に顔をこわばらせる。
大丈夫か、と心配しつつ、最初からヘラヘラされるよりはマシだなと何回もした面接を思い出す。
コンビニ経験豊富でも、仕事を適当にしたりとか、仲間に仕事を押し付けてばかりとか、そういうヤツもいて気が付いた時には辞めますというパターンもあった。
思い起こすと、そういう時の面接は大抵緊張感がない。
御手洗さんは緊張し過ぎだけれど、慣れてしまえば真面目にやるタイプだと思いたい。
奥の部屋へ通すと、俺は御手洗さんに席を勧め、自分は仕事用のデスクの椅子に腰かけた。
御手洗さんは周りをぐるりと見回して、目を丸くしていた。
棚に押し込まれた菓子やカップめんが天井まで届いている。
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