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「コンビニの裏、初めてですか?」
「はい。凄いですね。品物で溢れてて」
「店舗にもよりますけどね。うちは、ここが一番出し入れしやすいので、ここに出入りの激しい菓子やカップ麺を置いてます。本当はいけないんですけど」
「え? なんで」
「だって、見てくれ悪いし。あんな高い所の商品を取ろうとした時にケガでもしたら大変ですからね」
そう言うと、御手洗さんは「はあ」と深いため息を吐いた。
分かっているのかいないのか、全てが初めてで社会科見学状態だ。
「では、履歴書を拝見させて頂きたいのですが」
「はい」
ゆっくりとバッグから履歴書を出す御手洗さん。
彼女を雇うなら、まずは日々の動作を素早くすることからか、と頭の中で点数を付けていく。
履歴書を見てみれば、最終学歴、最終職歴一社以外にこれといった情報はなかった。
職歴も、随分前のものらしく、本当にあっているのか分からない。
「あの、この会社では何をしていらしたんでしょうか」
「事務です。といっても、お茶くみとか、コピー取りとか。最近の人とは少し違うかもしれないですが」
「ふーん。コンビニって単純作業じゃないですけれど、その辺の覚悟はあります? 臨機応変に対応しないといけないし、お客様から色々言われても落ち込む暇もありませんし」
「それは、きっとなんとかなります。自治会とかPTAとか、色々やりましたから」
的ハズレ、な答えになんだか思わず笑いそうになる。
所詮は自治会、PTA程度なのだ。
主婦が考えそうなことだ。
それらをこなせばコンビニの仕事が出来ると錯覚されても困る。
「まあ、それは大変なことでしょうけれど。なんていうか、仕事を常に気に掛けながらレジを打つってことは若い子でも大変ですよ? 大丈夫ですか?」
「電卓を打つのなら、家計簿付けているので早いです」
「うーん。まあ、電卓よりも最近のレジは色々機能がありますよ? タッチパネルとか」
「え? あ、なんとかなります」
「なんとか、うーん」
あんなに逃げ腰だったのに、面接当日になったら御手洗さんに押し切られている形でさっきから頭をぼりぼりと掻いてしまう。
確かに、何度も経験すればどうとでもなる、そういう仕事ではあるけれど、向き不向きがあるのも事実だ。
御手洗さんはどう考えても不向きな方の部類に入る。
でも、どこから湧くか分からない前向きさは、コンビニ店員向きかもしれない。
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