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月の環
どこまで走ってもついてくる月を、どこまでも走っては振り返って見ていた。
ほら、ごらん。と母は言った。月はよほどおまえのことが好きなのよ。
私はそれを信じて頬を赤らめた。月はどこまでも私についてきた。これ以上の証があるだろうか。
暦の上では秋。けれど夜の風はまだ生暖かかった。
少しだけ水気の抜けた桜の葉が、しゃらしゃらと鳴った。
近所の犬よりも小さかった私。月の求愛に応えて頬を赤らめた私。
天地神明が私を愛していた。
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