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シュワシュワと弾ける気泡が喉を焼く。
負けるものかと勢いよく飲みこみ、ボトルから口を離して一瞬詰めた息を吐き出した。
教室の窓から吹きこむ温い風が、白いカーテンと少し汗ばみ重くなった俺の前髪を揺らす。
よく晴れた青空の下、じゃれ合いながら下校していくカップルがちらほら。
「あ~……カノジョ欲しい」
シュワシュワシュワシュワ、腹の中で炭酸水が叫んでいる。
お前の青春はまだ始まらないのかと、夏が終わるぞと叫んでいる。
うるせぇな、わかってるよと心の中で返事をした。
高校2年の夏が終わる。終わる、というかもう終わっている。
夏休みはとっくに終わり、いまは9月。
まだまだ暑い日が続いていて終わりが見えないが、驚くことに暦の上ではもう秋だ。
「でたー。矢野の“カノジョ欲しい”。それ毎日聞いてる気がするんだけど」
日誌に『本日のクラスの様子』を書きこみながら笑うのは、クラスメイトで同じ日直当番に当たっている奥山だ。
女子にしては短すぎる黒髪は、俺と同じように少し汗ばんでいた。
もっとも、俺たちはバスケ部で、いつも全身汗だくになって走っているわけだから、このくらいの汗はかいていないのと同じだけど。
「うっせ。そういうお前だっていねぇだろ、カレシ」
「あたしはカレシ欲しいなんて言ってないし。部活でそれどころじゃないしね」
「そういうの何て言うか知ってるか? 負け惜しみって言うんだぞ」
「うっざー。意味わかんない。負けてないっつーの」
机の下で、奥山がわりと本気で俺の足を蹴ってくる。
奥山は髪は短いし背は俺より高いしおまけに狂暴だ。
顔は悪くないんだから、もう少し女らしさというか、可愛げみたいなものを身に付ければモテるだろうに。
「俺だって負けてねぇわ。……つーかさ、俺、カノジョできるかもしんない」
照れを存分に内包した俺の呟きに、日誌を書く奥山の手が止まる。
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