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「え・・っと」
ただの聞き間違いだろうか。
それとも、世の中では『好き』の気持ちを犬語で表現することが流行り始めたのか?
とっさに顔を上げ瞬きを繰り返す瞼の向こうで、ヒロトくんはとても嬉しそうに、そして誇らしそうにニコニコと笑っている。
やっぱり私が社会の厳しさを痛感してる間に、時代は変わってしまったのかも。
気を取り直して、それなら私も彼の思いに答えなければ。
私にとっては可愛い後輩だったけど、卒業して3週間も合わない間に、どれほどヒロトくんに支えられていたかと今思い知ってたとこなのだから。
もしも伝えてくれるなら、純粋なこの思いに応えよう、きちんと向き合ってみようと、窓の向こうのあなたを見て誓ったんだ。
「先輩・・俺のこと飼ってくれませんか」
時代はもはや、女性がリードどころの話じゃないみたい。
さあこの手を握り返そう・・とした瞬間、ヒロトくんが切り出した言葉に、私も再び固まった。
「ヒロトくん、ごめんね。話がちょっと見えなくて・・」
もしかして、あの頃の仲間を引き連れてのドッキリ?
でもヒロトくんはそういうのにノるタイプじゃないし、何より背後に誰が隠れてる気配もない。
キラキラした瞳に向かって「何言ってるの?」とは聞けない私を見つめ、ヒロトくんは抱きしめていた腕を外し、そのまま両手を握ってきた。
汗ばんだ感触が、彼の緊張と嘘のなさを表している。
「卒業してから先輩となかなか会えない日が続いて、思い知りました。俺、先輩がいないと苦しくて仕方ないんです」
「ヒロトくん・・」
「傍にいたいんです。でも、俺はまだガキだし20歳にすらなってないし、大人の先輩の横に並ぶびたいなんて大それたこと言えない。
だから、せめて俺を先輩の犬にしてください!」
もっと大それてる!!
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