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すぐに行くから待っててください、と言われ、やがてドアの向こうから足音が聞こえだす。
走ってきたんだろう、カツカツと靴がせわしなく鳴っている。
ドアノブに手を伸ばす間、頭の中はめまぐるしく回っていた。
突然、どうしたの?何があったの?話したいことってなあに?
私が落ち込んでいるときに、どうしてこんなにもタイミングよく来てくれるの?
ヒロトくん――・・・
チャイムが鳴る前に自分からドアを開けた。
あの頃よく着ていたパーカーを羽織ったヒロトくんがそこにいた。
一歩ずつ近づく私たちの距離。
ヒロトくんは少し汚れたスニーカーを、私は素足の先をギリギリまでくっつける。
ふわりと柔軟剤の良い匂いが漂い、やがて包まれた。
抱きしめられたのは初めてなのに、ドキドキよりもすうっと心が軽くなった気がした。
ぎゅうっと音がつくくらい力がこめられ、少し息苦しい。
何の脈絡もない突然の抱擁を、どうして私は受け入れているんだろう。
そしてヒロトくんは何でこんなことをしてるんだろう・・・
と、わからないほど私も鈍感じゃない。
「ヒロトくん・・」
目を閉じて身をゆだねるように彼の肩口におでこをつけた。
ヒロトくんは一瞬すんっと鼻を鳴らして、それから、こう言った。
「わんっ」
というか、鳴いた。
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