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――この現実は一体、何なんだろう?  織笠零治(おりかされいじ)は、メディカルセンターの待合室に座りながら、そんなことを思った。  いつものように大学に行き、いつものように授業を受け帰宅しようとしたら、これまた“いつものように体調が悪く”なったので、行きつけのこの場所に来てみれば面倒な事態に巻き込まれた。  織笠は至って普通の大学生だ。身長も平均的だし、体重も少し痩せぎみ。ただ、昔からよく体調を崩す傾向にあるので何年も通院している。  が、はっきりした病名は今なお分かっていない。ホルモンバランスの乱れ、というのが医者の見立てではあるが、とりあえず薬をもらい、それで事なきを得ている。発症して十年以上はもう経つだろうか。 (はぁ……)  心の中でため息を吐いて、黒い柔らかな髪を掻く。あまり首を動かさないようにしながら、視線だけで辺りを見回してみた。  このメディカルセンターは東京でも指折りの巨大総合医療施設であり、最新鋭の医療機器、あらゆる分野の名医を集結させている。真っ白に塗られた空間は、クリーンさを際立たせ、患者に菌をイメージさせない。加えて、何台もの空気清浄機が音も立てずに稼働している。角に観葉植物が置いてあるが、恐らくは作り物だろう。入り口に足を踏み入れた瞬間から精神のケアを、というのがありありと伝わる。  彼の横には青ざめた顔の老人男性。反対側には白衣を着た若い女性看護師がうなだれている。背後にも人々が密集しており、皆一様に怯えと不安、恐怖の色を映し出していた。  実のところ、彼らは全員、ソファに座っていない。患者、職員に拘わらず、硬く冷たい床の上にまとめさせられていたのである。  事の発端は、二時間ほど前。四人の男性グループが突如、この場所へやってきたこと。  全員が揃いの薄汚れた緑のロングコートを羽織り、フードを目深にしてサングラスで顔を隠していた。あまりに異質な出で立ちに、周囲も訝しげな視線を投げかけたが、すぐに事態は最悪に落ちる。  男たちは物騒な銃や刃物を取りだし、この施設内を占拠。逃げ遅れた多々の人間を人質を取り、立てこもりを開始したのである。
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