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 情けない仲間に、リーダーの男は呆れたため息を吐く。 「ったく、仕方ねぇなぁ……」  男のサングラス越しの瞳がこちらに向けられた。そして、品定めのように拳銃が人質一人一人に動かされる。 「よし、まずはお前からだ」 「!?」  指名されたのは織笠だった。選定に意味なんてないだろう。列の一番前、しかも真ん中近くにいたため、たったそれだけだった。  マジかよ……。  頭がくらんだ。体内から血の気が一瞬にして床へ奪われた気分だ。周囲の雑音が消え、男の銃口にしか目がいかなくなってしまった。 「立て」  男は簡単に言った。だが、そう言われて立てるわけがないし、立つ気力が沸くわけがない。さらに男が、今度は語気を荒げ、「立て!」と命令してくる。織笠は仕方なく立ち上がる。上手く力が入らない。自分の足ではなくなったみたいだ。  もうすぐ殺される。  奥歯がカチカチ鳴る。  目の前の現実を受け入れられるはずもなく、命を乞うこともできない。格好悪いとかではなく、そんなのは無駄だと感じたし、なにより声が出ない。思考はストップし、心臓の激しい鼓動だけが全身を通して伝わってくる。  ――人生の終わり。  ついこの前成人になったばかりだというのに。  どうして。どうして。どうしてだ!  両親の顔が頭に浮かぶ。何不自由なく育ててくれた優しい両親。申し訳ない。こんな形でお別れになるなんて。  不運だ。無念だ。何もかもが憎い。身勝手な理由で罪もない人々を殺す短絡的なコイツらも。外で傍観して、いつまでも突入の気配さえない警察も。このタイミングで病状が悪化した自分にもだ。そもそもこの訳の分からない病気にさえ怒りを覚える。  頬を雫が伝った。  もっと生きていたかった。もっと人生を謳歌したかった。楽しいこと、辛いこと、色々経験したかった。  仕事を頑張り、どこかで女性と知り合い、結婚し、子どもに恵まれる。そんなありふれた人生を。 「……安心しな。お前が寂しくないよう、すぐにこいつらもあの世に送ってやっからよ」  拳銃に指がかかる。男は織笠に向かって続けてこう言い放つ。 「さようなら。お前に精霊の御導きがあらんことを」
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