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 涼やかな声でそう訊ねたのは、二人の男たちとは違う異質な雰囲気を纏う美女だった。  こんな路地裏に似つかわしくない清楚な着物姿。初雪のように白い布地には青や紫といった朝顔の花模様が咲いていた。艶やかな光沢を放つ藍色の髪を、同色の濃いめのリボンで止めてあるのが魅力的なグラデーションとなり、大きな瞳と、小さな赤い唇が作り物のように綺麗に枠に収まっていた。  内側からも外側からも品の良さを表している。もう何世紀も前に絶滅した大和撫子のようだ。  女性の問いに金髪の男が頷く。 「違法は違法でも、裏で売買されていたのは対人間用に処方される薬物じゃない。その効果は体内の“マナ”を一時的に増幅させる、いわば一種のドーピング剤だ」 「とても信じられませんね……。ここは患者からの信頼も厚い、と評判でしたのに」  着物の女性が残念そうに呟いた。 「組織ぐるみではないだろう。恐らく上の者も知らない、ごく一部の人間の犯行。十中八九、薬剤師の仕業だな」 「認可されていない薬物ですものね……。独自に調合し、精霊使いに売っていた……」 「売人はまた別かも知れんがな。期間を考えると、現在までかなりの精霊使いが買ってるようだ」 「有能過ぎるのも問題ですね……」  ふぅ……と息を吐きながら着物の女性が頬に手をあてる。 「ま、そっちは警察に任せようや。俺たちはその襲撃犯を退治するんだろ?」 「ああ、精霊使いは俺たちの管轄だからな。おそらく、奴等は無登録下の“ストレイエレメンタラー”の可能性が高い。俺たちはすみやかに対象を排除、搾りカスも残らないようにマナを回収する」  と、金髪の男が改めて任務の内容を二人に告げた、その時。 『――じゃあ、今回の作戦はどんな風にいきます?』  彼らに割って入ったのは、若い少女のような声。三人が上を向く。建物の上空から滑らかに降りて来る小さな物体がある。直径十五センチにも満たないその物体は、彼ら三人の眼前で止まる。  いや、正確には物体と表現するのは間違いかもしれない。  それは、ゆるやかに上下を繰り返す緑の発光体。声はその光からだ。この光はまるで生きているかのように動いているが、意志があるわけではない。  ――精霊。それがこの光の名だ。
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