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つい尖った声が出た。
「もうおれは、きみを捉えた」
その宣言を聞いて、捕手の高尾武明は友好的な笑みを消した。
「……へえ。そういうコト」
鋭い視線で射抜かれる。
「相ヶ瀬くんが凄いバッターなのは解ってるよ? でも俺には勝てない。ここは俺が、支配する世界だ」
確かに、守備を支配する扇の要は、今は高尾だ。しかし、そんなことは関係無い。相ヶ瀬日和には負けられない理由があった。打者に対して強気で攻める、それが彼の姿勢ならば、己のバットで打ち崩すのみだ。
「言ってろよ」
球審の「プレイ」の声が、頭の隅で響いた。
バットを構える。自分の心臓の音が、音そのものが日和を急かしているようであった。
負けられない試合は、何度だって経験した。プレッシャーは感じるし、緊張もする。だが日和は、あらゆるものを自分の力に変えてきた。でも今は、それが上手くいかない。落ち着け、落ち着けッ。落ち着けよ!
視線がブレた。流れた視界、スタンドの端に、光を見つけた。
兄だった。兄の顔は、逆光でよく見えない。それでも、その存在が、日和を安心させた。力が、みなぎってくる。
──ピッチャーが腕を振り上げた。
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