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◇ ◇ ◇
待ち合わせの駅前に行くと、すぐに一ノ瀬の姿を見つけた。会社帰りの時とは違う、少しラフな髪型。ネイビーのシャツにクリームホワイトのストレートパンツ。長身で、脚の長さが際立つ出で立ちに、通り過ぎていく人はまるで吸い寄せられるように視線をやる。
久しぶりに日の光の下で見る一ノ瀬の姿は、比喩ではなくキラキラして見えた。
「秋穂さん」
篠が声を掛ける前に気づいた一ノ瀬は、破顔して向かってくる。
「悪い、待たせた?」
笑顔が眩しく感じて、照れくさくて、篠は少し視線を逸らした。
「待ちきれなくて、早く来てしまったんです。予約の時間まではまだ余裕がありますから、のんびり向かいましょうか」
弾んだ一ノ瀬の声に胸が高鳴るのを感じる。耳が赤くなっていないだろうかと心配しながら、篠は素っ気なく「ああ、うん」と答えた。
「秋穂さん、昨日は遅番だったんでしょう? あまり眠れてないんじゃないですか?」
目的地へゆっくり歩き出しながら、一ノ瀬が心配そうに尋ねてきた。
「平気、出掛けるギリギリまで寝てたし。お前こそ昨日の夜帰ってきたとこで全然休めてないんじゃないの」
「疲れてるように見えますか?」
少し得意げな顔で覗き込んでくる整った顔は、確かに疲労の色は見当たらなかった。
「今日が……いえ、今日からずっと楽しみが待っていると思うと、疲れなんて感じなくて」
「……ばか」
照れ隠しで悪態をついても、一ノ瀬は幸せそうに笑うばかりだ。
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