番外編 その後の二人

17/21
2034人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
◇ ◇ ◇  待ち合わせの駅前に行くと、すぐに一ノ瀬の姿を見つけた。会社帰りの時とは違う、少しラフな髪型。ネイビーのシャツにクリームホワイトのストレートパンツ。長身で、脚の長さが際立つ出で立ちに、通り過ぎていく人はまるで吸い寄せられるように視線をやる。  久しぶりに日の光の下で見る一ノ瀬の姿は、比喩ではなくキラキラして見えた。 「秋穂さん」  篠が声を掛ける前に気づいた一ノ瀬は、破顔して向かってくる。 「悪い、待たせた?」  笑顔が眩しく感じて、照れくさくて、篠は少し視線を逸らした。 「待ちきれなくて、早く来てしまったんです。予約の時間まではまだ余裕がありますから、のんびり向かいましょうか」  弾んだ一ノ瀬の声に胸が高鳴るのを感じる。耳が赤くなっていないだろうかと心配しながら、篠は素っ気なく「ああ、うん」と答えた。 「秋穂さん、昨日は遅番だったんでしょう? あまり眠れてないんじゃないですか?」  目的地へゆっくり歩き出しながら、一ノ瀬が心配そうに尋ねてきた。 「平気、出掛けるギリギリまで寝てたし。お前こそ昨日の夜帰ってきたとこで全然休めてないんじゃないの」 「疲れてるように見えますか?」  少し得意げな顔で覗き込んでくる整った顔は、確かに疲労の色は見当たらなかった。 「今日が……いえ、今日からずっと楽しみが待っていると思うと、疲れなんて感じなくて」 「……ばか」  照れ隠しで悪態をついても、一ノ瀬は幸せそうに笑うばかりだ。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!