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一ノ瀬が腰を落ち着けたのと同時に、篠は立ち上がり一ノ瀬へと覆い被さった。突然のことに油断していたのであろう一ノ瀬は、篠の体重を抱えきれず仰向けに倒れた。篠は腹の上に乗り上げ、その顔の両横に手をついて一ノ瀬を上から見下ろす。
「篠さん……?」
呆然としたような一ノ瀬に、篠は悠然と微笑む。
「なあ、男と寝たことある?」
一ノ瀬は目を見開いた顔で首を左右に振る。
「じゃあ女は?」
「……あります」
掠れてはいたが、今度はちゃんと声に出して一ノ瀬は答えた。この男はどんな風に女を抱くんだろう。篠の中に純粋な興味が湧く。
「セックス好き?」
「……普通、です」
困惑しつつも真面目に答える男が、篠は少し可愛く思えた。
「嫌いじゃないならいいや。俺としない?」
驚嘆の表情を張り付かせる一ノ瀬に、篠はくすくすと笑い声をもらす。
「篠さんは、男が好きな人なんですか?」
「別に。でも言ったじゃん。俺、快楽には流されちゃうタイプだって。気持ちいいならどっちでもいい」
篠は自分のユニセックスな容姿が、多少は男の官能をくすぐることを理解していた。
「やったことないこと、したいんだろ?」 柔らかな手つきで一ノ瀬の頬 を撫で、甘く優しく耳元で囁く。硬直する一ノ瀬へと篠はそっと唇を寄せた。
「……っ、ん」
触れ合った箇所から直に伝わる緊張を解すように、篠は何度も柔らかな接触のみを繰り返し、やがて輪郭を確かめるように舌でなぞる。条件反射で開いた唇へと滑り込ませて舌を探り当てると、挑発するようにくすぐる。
「やる側は女相手と大差ないって」
唇を離し、いい子だと言う風に、篠は一ノ瀬の前髪を撫でた。
「じっとしてな」 篠はそう言い置いて一ノ瀬のネクタイに指を掛けた。絹製のそれを解いて床に放っても、シャツのボタンを上から一つずつ外していっても、一ノ瀬はされるがままだった。まるで篠の先 程の言葉が魔法だったかのように。だけど篠は、最初にキスをして突き飛ばされなかった時点で、そうなることは予想していた。澄んだ一ノ瀬の瞳の中に、戸惑いはあっても拒絶の色はない。
「篠さん……」
不安げに名前を呼ばれ、篠は高揚する自分を感じた。
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