第2章

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「そんなに俺の体、忘れられなかった?」  驚きに目を見開く一ノ瀬の唇を塞ぐ。  男と一夜を共にしたという過ちを口外されたくない。だからどうか忘れて欲しい。一ノ瀬が自分のもとへやってきた理由がそれを伝える為だったら利口だったのに。自分を見る一ノ瀬の目。唐突に掴んできた手の強さ。篠はそれらから、一ノ瀬の目的がそうではないことを悟っていた。同情に似たような気持ちを抱きながら、篠は同時に男を嘲笑った。  不意に一ノ瀬の手が篠の両肩を掴み、強引に引き剥がした。肩を掴んだまま葛藤するように篠を凝視する。その息が乱れているのは唐突に仕掛けられたキスの余韻だろうか。 それは時間にして数秒の出来事だった。次に篠が何か言葉を発しようと口を開き掛けた瞬間には、篠の体は引き倒され、その上に男の体重がのしかかる。入れ替わった体勢に息つく暇もなく、一ノ瀬は噛み付くように篠の唇を奪った。  それが篠にとって、いつものゲームの始まりの合図だった。 「ん……っ、ぅ」  綺麗に整えられていた一ノ瀬の髪に指を差し入れて乱しながら、篠は一ノ瀬の舌の動きに応えた。 「篠さん……っ」  一ノ瀬はむしり取るように、篠が着ていたコットン生地のカットソーを脱がせると、露わになった素肌に触れた。 前回の行為では、一ノ瀬が最中で萎え ないように、篠は最後まで上を脱がなかった。一ノ瀬は感触を確かめるように肌を撫で、唇を落とす。そこは男でも感じるのだと篠が教えた場所に舌を這わせ吸い付いた。 「ん、んっ」  篠が反応を示すと更にきつくそこを吸い上げ、軽く歯を立てる。一ノ瀬に好きにさせている間、篠は男のシャツをズボンから抜いてたくし上げ、裾から手を入れて直にその背を撫でる。一ノ瀬はびくりと体を揺らして動きを止めた。体を起こした一ノ瀬のシャツのボタンを、篠は焦らすように外していく。一ノ瀬は熱の籠もった目でそれを見守っていた。すべてのボタンを外し終え、シャツを脱がせてやると、一ノ瀬は再び篠に覆い被さった。肌に吸い付きながら、篠のベルトのバックルへと手を掛ける。細身のチノパンの前を寛げ、下着越しにそこへ触れる時は少し躊躇った。やがてそろりと篠の下肢を指で辿る。
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