第2章

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「へえ、部活なにやってた?」 「中学は水泳、高校は剣道です。どちらも趣味の範囲で今も続けていますよ」  綺麗な姿勢にしなやかな筋肉。その答えに篠は大いに納得する。この見た目に家柄、そこにスポーツマンという要素が加わる。訊かずとも勉強は当然のようにできそうだ。 「お前相当モテるだろ。バレンタインチョコ最高何個もらった?」  ここまでくると嫌味を通り越して純粋な興味が湧いた。 「覚えてません」  困ったような顔つきに、一般人では到底及ばないような個数であることを篠は察した。 「じゃあ今まで何人くらいと付き合った?」 「二人ですね」  一ノ瀬はあっさり答える。その言葉は端的な事実を述べているだけで、照れも引け目も感じられない。 「マジかよ。少なくない?」  付き合うと長いタイプなのだろうか? それでも一ノ瀬の場合、言い寄ってきたであろう人数を考えれば少な過ぎる気がした。 「興味がないとは言いませんけど、自分の中で優先順位が低いというか」 「お前ってさ、見た目チャラそうなのに意外に硬派だよな」  篠の質問攻めに嫌な顔一つせず応じていた一ノ瀬だったが、それに対しては複雑そうな表情を見せた。 「……チャラそうですか?」 「うーん、ギラギラしてる感じはしねえけど、見た目が派手」  篠は手を伸ばして一ノ瀬の明るい色をした髪を摘まんだ。 「これ染めてんの?」 「いいえ、地毛なんですよ。俺少し外国の血が入ってるんです。祖母がイギリスの人で」 「あ、そういや瞳も変わった色してるよな」  篠はじっと一ノ瀬の瞳をのぞき込む。よく見ると茶色より少し明るい……アンバー。一ノ瀬が飲んでいるウイスキーの色だ。 「篠さんは髪も瞳も真っ黒ですね」  一ノ瀬の指が篠の髪を梳いて指で弄ぶ。 「とても綺麗な色です」  琥珀の瞳が見つめる。自分を見るその色こそ、本物の宝石のようだと篠は思った。吸い込まれそう……そんな錯覚に眩暈がする。 「篠さんは俺に色々訊いてくれますけど、自分のことはあまり話しませんね」  一ノ瀬の言葉にふわりとどこかに浮いていた篠の意識がすっと醒める。 「別に。ただ単にお前みたいに華々しく語れるモンがねえだけだよ」  篠は自分の髪に触れていた一ノ瀬の手を掴み、自分から振り払った。
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