第2章

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 十五分程して部屋に戻ってきた一ノ瀬に、篠はベッド に入るように命じた。 「今日はもう寝ろ」  一ノ瀬は篠の言葉にひどく驚いた顔をした。 「しないんですか?」  その声はどことなく不安そうだ。 「気分が乗らない」  ぴしゃりと言ってのけると、一ノ瀬の表情が陰る。 「俺、何か篠さんの気分を害するようなことをしてしまったでしょうか?」  悲しそうな顔で見つめられ、篠の胸がズキリと痛んだ。  疲れているだろうから早く休んだ方がいい。そう素直に言えればいい。だけど自分と一ノ瀬はそんなお互いを思いやるような甘い関係ではない。さっきの自分はどうかしていたのだ。篠は自分に言い聞かせるように心の中で唱えた。一ノ瀬は思いがけず知ったばかりの刺激的なセックスに溺れているだけ。自分は完璧な男を弄ぶ優越感と、都合のいいひと時の快楽を求めているだけ。それ以上でもそれ以下でもない。……それなのにどうして、こんなに不安になるのか。一ノ瀬が悲しそうな顔をすると篠も悲しい。自分が傷付けてしまったのかと思うと胸が苦しい。 「顔色が悪いから、……お前の」  結局篠は胸の圧迫感に耐え切れず、長い沈黙のあとぎこちなくそう言った。一ノ瀬は意表を突かれたような顔で篠を見る。 「心配してくれたんですか?」  悲しげだった表情が明るくなる。篠はそれを見てほっとした。 「別に。ヤってる途中に倒れられてもこっちが困るし……」  皮肉を言っても一ノ瀬は笑顔のままだった。 「それじゃあ、篠さんも一緒に寝ましょう?」 「は? え、ちょっと」
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