第2章

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「正気かよ。身内に知られてもいいのか? 会社や学校に写真バラまかれても平気だってか?」  失望。嫌悪。軽蔑。大抵の人間は大なり小なりそんなの感情を向けてくる。今まで築いてきた関係は歪むなり壊れるなりするだろう。そんなことは容易に想像できる筈だ。 「どうぞ、ご自由に。……本当に篠さんにその気があればの話ですけど」  見下ろす一ノ瀬の顔は、篠の知っていたものとは違うように思えた。いつもの柔らかな微笑を取り除いた一ノ瀬は大人びて見えて、篠は緊張で体を強ばらせた。 「俺にはあなたがそんな人には見えない」 「なに夢見てんの?」  篠は小馬鹿にするように鼻で笑った。 「俺がお前と寝たのは、ただの暇つぶしだ。セックスして証拠押さえとけば、のちのち金になるかもしれないから関係を続けてただけ」  一ノ瀬の家程裕福ならば、口止め料も出し惜しみすることはないだろうから。  動揺していることを隠すように辛辣な言葉を口にした。一ノ瀬は一瞬だけ息を詰まらせて悲しげな表情を見せた。けれど一度瞼を閉じ、再び開いた時にはそれは消えていた。 「それじゃあどうして、さっき部屋を出ようとした時にそれを要求しなかったんですか?」  静かな声に、篠は何も答えられなかった。 「篠さんはお金が必要なんですか?」 「金がいらねえ奴なんていねえだろ。お前みたいな金持ちにはわかんねえだろうけど」  答えたくない質問には口を閉ざす分、答えられる問い掛けには饒舌になった。 「どけよ」  低い声で告げて、篠は一ノ瀬を睨みつける。一ノ瀬はゆっくりと体を起こした。ようやく引き下がったのかと思いきや、一ノ瀬は上体は起こしたものの、未だに篠の腰の上を跨いだ状態から動こうとしない。
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